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森ちゃんの修理ブログ#17「岩崎宏美とトミー・フラナガンとアポロ300号(宇宙船ではありません)」

2018年1月24日

お久しぶりです。約1年間ブログを休んでおりました。久し振りに楽しいコンサートに行ってきましたので。ご報告を兼ねて発信致します。



先日「岩崎宏美さん」がコンサートに見えられました。彼女のデビュー当時は森ちゃんは学生時代で、バリバリの硬派だったので、恥ずかしくて宏美さんのコンサートに行けませんでした。先日彼女はコンサートの中で「来年は赤いちゃんちゃんこを着る年なのですが、赤いドレスだったら着てもいいかな」と云っておられました。相変わらず澄んだ艶のある美しい声で、デビュー当時を思わせる若々しさでした。とても暦が一巡りされているとは思えませんでした。



パンフレットと当日買ったCDの画像をご覧ください。ミーハーですが握手もさせて頂きました。



当時学生だった私が良く聞いていたのが、「トミー・フラナガン トリオ オーバーシーズ」。懐かしい1枚です。J.J.ジョンソンのヨーロッパツアーに参加していた彼が、1957年スエーデンのストックホルムで、トミー・フラナガン(P)・ウィルバー・リトル(B)・エルヴィン・ジョーンズ(D)の3人がマイナーなメトロノームレーベルに録音した当時幻の名盤と言われていた1枚です。当時からピアノが好きだった森ちゃんは、何度も聞いておりました。今聞いても色褪せない彼らの演奏は、とても60年前の作品とは思われません。



レコードジャケットとレコードの画像をご覧ください。最近ネットで見たCDはジャケットにCの文字がいっぱい並んでいましたが、40数年前に買ったレコードはこの様でした。レコードラベルにもメトロノームと入っています。好きな方にはとっても懐かしいハードバップ時代の逸品です。



今回修理が終わった神奈川県のA様のピアノ「アポロ 300号」は1957年製造のピアノです。先日新居の東京都S区にお送り致しました。修理前は画像を見て頂ければお判りになると思いますが、60年の年月を感じさせるものです。そこで森ちゃんは完全オーバーホールをお勧めしました。チューニングピン・弦・ハンマー・ダンパ^フェルトを交換し、外装を全塗装・フレーム全塗装とメーカーならではの修理を致しました。しかしながら修理に掛ったご予算は中程度の中古ピアノをお求め戴く位で済んで居ります。暦が一巡りする60年は長いようで短い期間です。私の経験からピアノの弦・ハンマーは状況が良ければ60年前後の耐用年数は有ると感じます。そこで、消耗部品を交換すればまた今後数十年使える可能性があるという事です。



東洋ピアノでは毎月100台内外のアップライトピアノ・グランドピアノの修理を行っています。それぞれのピアノの使用状況・経過年数・お客様のご予算・ご要望を勘案して修理仕様をお客様と相談の上決定しております。私たちはメーカーとしてピアノの製造・修理に携わる事約70年。日本国内外のメーカーのピアノを熟知した技術者が、夫々のピアノに合った修理を行っています。



【ビフォー画像】
A様のアポロ300号は1957年製造で約60年経過。画像が小さくて判りづらいですが、個々の部品を見て頂くと解りますが、かなり外装も傷んでおりました。塗膜も当時は薄く、塗料の質もあまり良いものが無い時代でした。



【アフター画像】
現在はポリウレタン系の塗料で、下地のサフェーサーも含め新品塗装と同様に塗装しています。



この時代の響板材はアカエゾが使われる場合があり。此のピアノも一般的な大木になる北米産のスプルースではなく、アカエゾと言われるアカエゾマツが使われています。アカエゾはトウヒ属ですが成長が遅い為目が詰まり内部まで均一で樹脂分が多く粘りがあり楽器に適した木材ですが、近年では資源が枯渇し入手しづらくなっています。



60年も経過しますと、傷も多くなり、塗膜の劣化も進んでいます。当時の塗料の品質は、現在のものと比べるのもおかしな話ですが、塗面の艶・塗膜の厚さ・塗膜の硬度において、格段の進歩が有るのも事実です。修理の時は、その時代の最も進んだ物を使います。



【ビフォー画像】
蝶番は素材が真鍮で出来ています。真鍮は銅と亜鉛の合金で、出来ています。表面に酸化銅の被膜が出来易いのですが、これが出来ることにより腐食の浸潤を防ぐ働きもあります。



【アフター画像】
被膜自体は薄いので研磨することにより当初の輝きを取り戻します。
また、ピアノの外装でで最も傷む鍵盤蓋も全塗装することで、磨いても落とせない汚れも綺麗になります。



【ビフォー画像】
塗膜が薄いと長期間の使用で塗料が剥げて木地が表面に出てきます。するとそこに汚れが付着し木地に浸透した場合変色してしまいます。



【アフター画像】
現在の塗料は肉盛りが容易で、丈夫な塗膜となり、多少の擦り傷が出来ても磨くだけで落とせます。綺麗に塗装すると以前には見えなかった天然木の木目もはっきりとわかる様になりました。



【ビフォー】
譜面板蝶番も長蝶番と一緒で真鍮で出来ています。研磨してきれいになりますが、長さが短いので、芯が緩みやすくなり、鍵盤蓋を倒しただけで譜面板が降りてしまい黒鍵にぶつかってしまいます。



【アフター画像】
修理ではこの嵌め合いを締めて固くします。そうすることで、譜面板が簡単に降りないようにします。東洋ピアノではこのような細かなところまで気配りをして直しています。譜面板も小さな部品ですが丁寧に分解して塗装します。



【ビフォー画像】
此のピアノはAPOLL0のAの文字が取れてなくなっていました。



【アフター画像】
さすがに60年前の文字の在庫はありませんので、通常の在庫のある文字にすべて交換しました。入手できれば他メーカーの文字も直します。全くない場合は、別途費用は掛かりますが、写真を撮って版を起こして作ることもできます。此のピアノの場合追加費用は掛かっておりません。



【ビフォー画像】
以前はワシントン条約が有りませんでした。そんな時代の高級ピアノには時として象牙が使われておりました。象牙の場合、滑りにくく指に馴染み易い利点がありますが、汗等を吸収して黄変する欠点がありました。尤もこの黄変が象牙の証であり風合いだと仰る方も居られますが、普通のご家庭では漂白することは殆どありません。



【アフター画像】
メーカーでは気になるものですから漂白をします。一般的に象牙が漂白に耐える回数は4回くらいでしょう。1度くらい漂白しても痛みは殆どありません。鍵盤は指で押してアクションを作動させ、音を出させる部品です。支点となる可動部と根本には、金属製のピンが通されており、ピンと木部の間には羊毛で出来たブッシングクロスという名前の細長い帯が挟まれています。弊社の修理は、一部を除き、ピンの研磨とブッシングクロスの交換を全て行っています。



【ビフォー画像】
オーバーホールの場合フレームと響板の汚れ落としと再塗装を行います。但し製造番号の所はマスキングをして残します。以前は全て塗り替えて同じ番号を打ち直しておりましたが、ある問題が起こってわざわざ昔の製造番号を残しています。数年前修理をしたお客様からクレームがありました。戻ったピアノが修理に出したピアノと違うとおっしゃられたのです。オーバーホールしたのですから、修理前と全く姿が変わってしまうのは当たり前なのですが、此れには本当に困りました。



【アフター画像】
その時から昔の面影を残すといいますか、製番の所のみ残しています。此のピアノはハハンマーの消耗度合いが限界なので新品のアポロハンマーに交換しました。60年も経過しますとハンマーの素材である羊毛も劣化し弾力が無くなります。弾力がなくなったハンマーは豊かな響きをピアノから引き出しません。



【ビフォー画像】
ピアノは弦楽器と違いユーザーがご自身で調律できません。その為ピアノの弦は常に80kg前後の張力で張り詰めた状態にあります。当然金属疲労が溜まるところに、ハンマーの衝撃が掛かってきます。一般的には1日1時間以内の使用で10年前後使い続けその後あまり使われなくなる状況が多いと感じています。この場合弦が消耗するまで60年程度かかると感じています。専門的に1日何時間も使う場合5年前後で消耗します。弦が消耗すると、音が伸びなくなり、最後は、断線することになります。又、チューニングピンは環境の変化でピンを支えるピン板が傷んでしまう事があり、音律が保持できなくなります。



【アフター画像】
弦を交換するときピンを回して弦を緩めますが、ピン板は固い積層の楓・山毛欅・マホガニーなどを使っているとは言え緩くなります。弊社では新品時は6.9mmを入れることがが多いのですが、この上に7.0・7.10・7.15・7020・7025と各種持っていて理想的なピントルクが出るよう使い分けています。弦については裸線は日本では鈴木金属工業製、海外ではドイツのレスロー社製が有名です。低音部は現に重量を持たせ低い周波数を短い弦長で得る為99.999%の純粋な銅線を巻付ています。日本では古川電工とか住友電工を使っています。海外ではドイツのデーゲンが有名です。



【ビフォー画像】



【アフター画像】
弦を交換する場合フレーム(鉄骨)を降ろしますので、全体を手を抜くことなく金粉塗装を施します。錆があれば当然落としてから塗装をします。鉄骨は鋳鉄製です。砂に木型を埋め込んで外すと木型の跡が溝として残ります。(上型と下型の2種類があり2つを合わせると砂の中に鉄骨の形が出来ます)。その中に溶けた鋳鉄(1,350~1,400度)を流し込みます。もちろん湯口と言われる注ぎ込む穴とガス抜きの穴も付けて。



森ちゃんも型込めとか鋳造作業もやったこともありますが、とにかく暑くてまっ黒になります。現在ではVプロと言われる自動化された工場もあり鋳造環境は昔に比べずっと良くなっていますが、私が経験したのは40年以上前の事でした。



【ビフォー画像】



【アフター画像】
木製の天秤なども磨いて60年の汚れを落としました。手抜きは致しません。ペタルも前述した通り真鍮製なので研磨してこの通り新品と同じ状態になりました。真鍮はバフで磨くのですが、真鍮は金色でもバフの研磨カスは真っ黒なんですよ。森ちゃんもやった事があります。



ピアノの修理がいかに大変かご理解いただけましたか。言ってみれば新品を作る方が或る意味簡単なのではと思ってしまいます。しかしご両親に買ってもらった(決して安くはなかったでしょう)ピアノを大切にしたいと思う方がいる限り誇りをもってこの仕事を全うしたいと思います。これがピアノを世の中に送る出したメーカーの責任だとつくづく思うこの頃です。



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